<勉強まとめ①狂犬ツアー「補助金悪玉論」>

 地方創生業界の風雲児の一人、狂犬(自称)こと木下斉さんの講演会に行ってきました。明快に課題も見えてきたし、狂犬どころか、非常にまっとうで誠実な論を展開していると思いました。
 そこから浮かび上がった課題をもとに自分の考えを整理したいと思います。
 
 *話の概要について森君のまとめが最適です。
  森君は経営コンサルタントですが、分析について
  徳島ではトップレベルのひとりだと思います。 https://www.facebook.com/teppei.mori.16/posts/1274807025895046?pnref=story 

 さて、僕が課題として受け止めた点は、以下の5点です。

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①補助金悪玉論=街づくり自助論について
②成功事例の模倣戦略について
③街づくり=アセットマネジメントについて
④街づくりの主語問題ーデザインはだれが?ー
⑤正しいことを正しくいうとは何か。
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①補助金悪玉論=街づくり自助論について
 木下論の骨子はなんといっても、補助金=悪玉という話です。行政が行う街づくりは、どうしてもハードによるものが多く、そこでは成功よりも失敗がどうしても目につきます。

 そのなかで、自助していこう。その自助を妨げているのが補助金という存在だという話です。
 この補助金も何に使っているのかによって、ずいぶんと変わりますし、また彼が言うように、多くのものが補助金で逆に負の循環になっていることが多いのも事実です。

 例えば、公的インフラですが、道路はまさに補助金です。
 いまでこそ、いらないところまで道路を作って、そのランニングコストをどうするのかというのは大きな問題ですが、大都市から過疎まで、物流を支えてくれているのは、そこです。しかし、問題となっているのは、大型商業施設などの収益性が悪化したもの。どうにかして地方に人を呼び込むためにハード整備を道路や橋の次にどんどんやってきたわけですが、これがうまくいっていない。

 そもそも論なのですが、企業が仕事をやりたがらない点で、自助論は崩壊しています。つまり、自助したくても企業があまり利益にならないと踏んでいるからこその地方都市だからです。だから、自助にはおのずと限界があります。もし自助しやすいなら、すでに企業がどんどん進出しているはずです(だから代わりに公共投資の形で、自治体が無理して商業施設を立てることになるのです)。

 ということは、自助論だけではだめで、何らかのサポートが必要というわけです。その点で所得の再分配を進めるために公共投資をうまく使いながら経済を循環させようという提案を行ったのがケインズだと理解しているのですが、これも雲行きが怪しくなっており(一番最初の公共投資は自助論ありきなのですが、一定以上やると補助金ありきになるのと、隅々までお金が実は回らないという課題などがあるようです)、自助論もサポート論もどうすれば解決するのかという点では、いまだ解決しきれていない大きな問題です。

 そのなかで木下論をうまく活用するとすれば、所得の再分配で行うための「ハード」については、自助(きちんと最低限経済を回せるものにしましょう)を考えようと。そういった意味では、自治体の政策論としては、よく理解できる話です。もうハードで所得の再分配をするのは考えものだという話です。

 そのなかで、成功例として取り上げられているのが、岩手県紫波町のオガールの事例です。

 紫波町に実際にいってきましたが、オガールは、「官民連携のイオン」というのが僕の解釈です。最強、最適解の商業施設を集めたものがイオンですが、オガールは、街づくりの最適解として、公園、図書館、体育館、宿泊施設など(周辺に住宅街)も織り交ぜて集積させた「総合型施設」です。イオンと違い、自治体の「身の丈サイズ」に合わせたものだということです。ですので、人口3万人のサイズにあったものですから、財務バランスはよくなります。
 *イオンの例は悪い意味で使っていないので、誤解なさらずよう
  に。イオンは景観としては悪いですが、商業施設としては大変
  うまくできています。

 しかし、イオンは私企業ですから、できるだけ多くの顧客を集めるために、全国クラスの店舗を集め、そして大きなハードにします。人口サイズから割り出すので、行政単位での集客は考えていません。だから、行政単位でみると、一気に地元の商店から顧客を奪います。もちろん、全国区の企業が参入してくるわけですから、とうぜん、全国区の地元商店もしくは、オンリーワンの商店しか生き残れません。

 また、過疎の地域が同じロジックで身の丈サイズの官民連携のハードとソフトを作ったとしても、これは当然無理な話で、木下論でもっとも有効に効くのは人口5万人以上レベルの地方都市で、なんにでも通用するロジックとして聞くのではなくて、ミドルサイズの行政単位をもとにした処方箋として聞けば納得がいきます。

 では、過疎地ではどうすればいいのか。

 確かに、過疎地でも同様に自助論でやり遂げるのは望ましいと思います。しかしながら、過疎地は、人口規模以上のお客様を引き寄せることのできる店舗でないと、難しいです。上勝や神山の事例でも、実際のところ、顧客分析をすれば、8割は町外のユーザーだろうと思います。それぐらいの顧客層を持たないと、やってはいけないからです。そういった意味で、オンリーワンの事業をどんどん増やしていく必要性があるのですが、ではオンリーワンの事業を営むことができるような起業家人材を引き寄せるには、どんな仕掛けが必要なのか。
 ここに一つは「投資として補助金」はあってもいいのではないかということです。
 僕がこれまで取り組んできたものも、公共の遊休資産をリノベーションして、<起業したくなる場づくり>をしてきました。リノベーションの三分の一から半額程度、ものによって8割該当するものもありますが、基本設計としては、投資した金額分で1年間売り上げられる規模のものしか取り組まないというルールを引いています。例えば、1000万円のリノベーションをしたとするならば、年商1000万円以上の事業規模のものしか作らないという考え方です。そして家賃、法人税でコツコツ町費に回していく。仮に家賃5万円ならば、1年間で60万円。15年払えば900万になります(法人税などを含めれば1000万円を超えます)。こういった投資の呼び水としての補助金はありうるだろうと。そういう面では、木下論の自助論の延長線でも考えることができるのではないかと考えています。
 
 そういった面で、補助金100%悪玉論というよりは、利回りの考え方次第で、投資にもなりうるものだと思うので、ボク自身は、限定的補助金悪玉・善玉論になります。

<続く>