<ヒトサラ・インターンシップって?>

<今年最初のヒトサライ・インターンの報告>
 2年前にインターンに来ていたOBの声掛けで紹介を受けた大学生の堀内さんがインターンに来てくれました。
 今年は、公募してきてもらうというよりも、「来てほしい学生」に思考の場を提供するという、人材投資型インターンという考え方でやっています。
 彼女が5日間感じた内容を以下に報告しておきます^^

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 このインターンシップに参加した目的を明示した上で、5日間を通して学び、感じ、考えたことを大きく分けて3つ以下に報告する。
 都市部における農地転換、地方における耕作放棄地の増加、人口減少や高齢化によって農村での生活が維持できなくなっている現状を知り、”農業を手段に、地域に住む人の望む暮らしを実現させたい”という思いがあった。実際に”農業”を1つの大きな要素としてその地での生活や働き方を提示している方に実際にお会いし、その生活や働き方を間近で見ることによって、将来の自分の理想の姿を創る一助にすべくこのインターンシップに参加した。

 先にも述べたように、このインターンシップを通して大きく分けて3つのことを学び、考えた。

 1つ目は、自分は農業を通したまちづくりに興味があるということを自覚したとういことだ。

 ”農業を手段に、地域に住む人の望む暮らしを実現させたい”と漠然と考えていたが、実際まちづくりが誰によってどのように行われているか知る機会がなく、ぼんやりとした目標になっていた。
 しかしこのインターンシップで大西さんをはじめとする様々な視点からまちづくりに挑戦している方々の生活や働き方を見て、まちづくりに対して具体的なイメージを持つことができた。
 具体的には、まちを客観的な立場から捉えその町に足りないものを補う、いわゆる”ジグソーパズル型まちづくり”や、地域に自ら入り込み地元の住民と密な連携を取りながらまちを作っていく”ルービックキューブ型”の2つが挙げられる。後者の場合、地元住民との関係性が深まるゆえに動きづらくなるという懸念点がある一方で、前者においても地域との関係構築の面で難しい面があるように感じた。

何れにせよ、まちづくりの方法に正解はないということがわかり、この面で大西さんがおっしゃった”選んだことを正解にする”という言葉につながるように感じた。

 加えて、大西さんが構想している”発酵村”に関してもその考えが非常に驚くもので刺激的だった。まず地元の阿波晩茶の市場やそ
のターゲットに注目し発酵という手段を提示している点、都市が脳的刺激の生産に適しているとすると、身体的安定をもたらす地方の生活形態に注目して、特に女性をターゲットにした健康的な生活の提供と発酵とが連動している点が特に特徴的だと思った。どんなビジネスでも当てはまると思うが、ある一つのことが爆発的に発展することを考えるよりも、それを基軸としたいくつもの小・中規模の波及効果を狙ったほうが経済的には効率が良い。この場合は発酵を基軸にゲストハウスやパン屋、味噌や醤油の市場拡大が予想される。このようにまちづくりとひとくくりに言っても、様々な形や方法があることを知った。今回は叶わなかったがそれらの提案に対する自治体の反応が非常に気になった。

2つ目は地域を支える産業の多様性とその課題についてだ。神山町に連れて行っていただいた際に訪れたSHIZQさんと上勝町における取り組みを例に説明していこうと思う。
 前者について、こちらの会社では神山町における水の減少やその原因の一つとも言える木材の手入れを一つの大きな課題とした。地元神山で生産された杉を利用し新しい価値を生み出すことで川の水を増やすことを一つの目的としている。
 このお話を伺った時に思いついたのはワンガリーマータイさんの言葉だが、少しずつ木を植えて水を増やす取り組みが現代でも地元に根付いているのだと感動した。

 しかし、一方で、年間で地元の丸太は5~6本程度使用しているというお話を伺って感じたのは、川の水に影響を与えるまで相当な時間が必要であるということだ。もちろん短期的な成果を出すことが地域の産業において最も大事であるとは思わない。しかし、この規模で最終目的を達成することを考えるのであれば、杉の使用量を増やすという非現実的な方法よりも、この活動の根底にある狙い、つまり地元の問題を地元の資源を利用することで解決しようとする姿を他産業に示すことがより有効な手段なのではないかと感じた。

 上勝町では地域を支えるというよりは、結果的に他方面から地域を支えるに至った活動を多くみたと感じている。ゲストハウスにせよ、飲食店にせよ、観光客や地元の住民の需要があって成り立つ。そこに温泉があり、ゲストハウスがあり、それに加えたカヤックなどのサービスがあることで、結果的に町にお金が落ちる。ここでポイントなのは観光客のためだけにある施設やサービスだけではないというところだ。イタリアンレストランのペルトナーレは観光に来た外部者だけでなく地元の方々も利用しているし、ゴミステーションも、環境系に興味をもつ学生の中では一度訪れてみたいと思っているそうだが、あくまでも地元の方が利用しているシステムであり、結果それが外部から注目されている。つまり外部ありきの内部ではなく、内部での必要性があって初めて持続的な地域の産業に成長するのではないかと考えた。

3つ目は阪東農園さんとの出会いだ。これは私の中で非常に大きい刺激になった。
 まず阪東農園の現状を述べた後、特に印象に残っている2点に関して説明しようと思う。阪東農園さんの一番の問題点は圧倒的な人出不足だ。生産だけでなく加工や販売、加えて海外市場への視察や県内の他農家からの買取作業など仕事が山済みにもかかわらず人出が足りずに生産量を伸ばすことができていない。阪東さんに直接お話をお伺いしたところ、学生でもある程度長期であれば手伝いに来
て欲しいとのことだ。最近学生と農業のマッチングが一種の流行のようにも感じるが、学生の場合は短期の手伝い程度であることが多く一時的な技術の伝達による農家の時間の損失が生まれたり、農家と学生の間に意識の差が生まれているように感じる。そのため学生を短期的に受け入れる場合農家はある程度それを承知した上で受け入れる必要があるし、それが難しいのであれば長期的な雇用を目指すことが効果的と言えるだろう。

 しかし現状における本当の問題点は情報が浸透していないことだと感じた。世界にまで市場を広げている阪東農園さんが実は人手不足であることがもっと伝わる手段があれば現状も変化すると思う。しかし誰でもいいから来て欲しいというわけではない以上、ある程度質の高い人を欲しているはずだ。これをSNSで拡散したからと言って良い結果が生まれるとは思えない。誰に向けてどの方法で発信していくかは農業界共通の今後の大きな課題である。

 またお話の中で特に印象に残っているのは海外市場と国内市場に関わる考え方と耕作放棄地の問題に関してだった。海外にも複数の顧客をもつ阪東農園さんだが、もとは初代が上海との取引を始め、それをきっかけに現在まで取引の規模を拡大してきたそうだ。ほと
んどが口コミであり、長く取引をしていく相手とは生産者である阪東さんが直接海外まで出向いて消費者や流通者とコミュニケーションをとっている。特にゆこうという果実は県内で主に有名だが、海外市場での評判を聞いて国内企業からのオファーもくるそう。ただ単に販路を拡大しているのではなく、直接のコミュニケーションを通して培った信頼関係を維持していこうとする姿に持続性の大切さを学んだように思う。国内では、農家の”生産物がお金に換わる”という実感をより高めその後生産のモチベーションにつながるように現金での取引を重視し他農家からの買取も行っている。これは農業に限った話ではないのだが、同業者が同じ縄張りで活動をしている場合競争を生み出すことが多い。阪東農園さんと他の同じ地区の同業者の経営規模が異なることもあり、阪東さんは地区の中で支え合い地域が立ち行かなくなるような経営をしないように尽力されてい
て、根強い顧客の獲得と地域での存在意義の確立が阪東農園さんの大きな強みであるように感じた。

 最後に耕作放棄地に関して、上勝町だけでなく全国の地域で同じ現状であることは言うまでもないのだが、全国で耕作放棄地の問題は深刻化している。
 問題は2点あって、耕作放棄地を利用したい側と提供したい側の情報交換が活発化つ正確に行われていないこと、大学の研究機関や大企業の参入などによる耕作放棄地の活用は長期的な対策にならないということである。
 短期的な参入はむしろ地元農家の負担になると考えられることは棚田のオーナー制システムから見ても明らかである。そこでまずは耕作放棄地を利用したい適切な管理者候補と提供したい側のマッチングをする必要があると阪東さんと意見交換をした。もともと耕作放棄地に関しては興味があったところなので情報交換の方法とマッチングのシステムを体系付けたいと思うきっかけになった。

 以上に書いたような事項をこの5日間で学んだ。将来的に”農業を手段に、地域に住む人の望む暮らしを実現させたい”という思いは変わらないのだが、まちづくりの多様性を学びその中で農業が大きな波及効果を生み出す要素となっていることがわかった。以前から考えていることなのだが、将来は地方で自分の活動が目に見える成果となって現れる仕事をしたい。
 
 しかし大西さんがおっしゃていたように、規模の大きいことを成し遂げようとする場合は他の手段もあるように感じた。軸は変わらないとしても長期的なスパンで考えてどのような知識や経験が必要なのかを整理した上で道を選択していきたい。”選んだものを成功にする”この言葉がとても印象的だが、現在の経験や知識も自分次第で大きく利用できると思った。大学生活中は精一杯ふらふらして自分の軸をより明確なものにすることが当面の目標です。 

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